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2025.02.06
西洋の敗北を読んで
フランスの人口学者エマニュエル・トッドの新刊「西洋の敗北」を読んだ。
エマニュエル・トッドはソ連の崩壊、ウォール街発の金融危機、イギリスのEU離脱など次々と予言した世界が認めるインテリジェンスである。
戦争は平時にはみえていなかった不都合な真実を炙り出す効果があり、ウクライナ戦争においては、西洋がロシアに敗北したことを明らかにしたというのが本書の結論である。
私たち日本人にとっては俄かに受け入れられない結論かもしれない。
が、何故に西洋諸国が実施したロシアへの経済制裁が功を奏さず、すでに3年にもわたってロシアが戦闘を続けることができているのか。逆に、圧倒的な軍事力を誇るとされていたアメリカがウクライナに兵器の供与し続けることが難しくなってきているのかに対する解を、本書は与えてくれる。
一つには、西洋以外の国々は、西洋諸国に対して戦争前から不信感を抱いていたのであり、その他の国々には、そもそもロシアへの制裁に積極的にコミットする意思などなかった。その代表国である中国にいたっては、アメリカはこの戦争が始まるまでは仮想敵国扱いをしていたのであり、中国が西洋諸国の枠組みにコミットするなどあり得ないことは少し考えれば分かることだ。私たち(トッドは日本も西洋諸国の一つとしてあげている)は、西洋こそが未だに世界をけん引するリーダーであり、自由・民主の価値を世界に広める役割を担っていると信じているが、すでに世界はその欺瞞を見抜いていた。
私たちの経済的に豊かさは、西洋が広めた自由で民主的な新興の国々からの搾取によって成り立っている。アメリカ発の金融危機によって新興国は大混乱に陥ったが、中国がそれを救った。アメリカの輸入依存体質は極限化しており、すでに国内製造業が崩壊し、弾薬を製造する力も極端に低下している。この退潮はもはや止めようもない。
本書の最大のポイントは、西洋の敗北の真因を自由主義の行き過ぎにあると断言しているところだ。自由が行き過ぎた結果、人々は精神的なバックボーンを喪失し(トッドはこれをプロテスタント・ゼロと表現する)勤労を美徳とする精神が破壊されたと述べる。また、これにより社会が崩壊し、個人がバラバラとなってしまったとも指摘する。ロシアはそうではない、とも。
本書は第二次トランプ政権誕生前に書かれたものであるが、本書を読めば第二次トランプ政権の誕生も歴史の必然に感じる。
ちなみにトッドは日本をアメリカの衰退とパラレルには捉えていないところがあるが、私はほぼ当てはまる状況が生まれつつあると心配している。
八木和也