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2025.05.09
権力者が言う「法の支配」の欺瞞
ロシアのウクライナ侵攻を非難しウクライナ支援の必要性を訴える時に、欧米日は自由で開かれた法の支配に基づく国際秩序を守らなければならないという言い方をすることがある。そして、民主政対権威主義国家という対立図式を描いたのがバイデン前大統領だった。
「法の支配」は憲法学に出てくる用語で、専断的な国家権力の支配(人の支配)を排斥し、国民の権利・自由を擁護するために権力といえども法に拘束される原理と説明されている。例えば、安倍自公政権は2015年に戦争法(平和安全保障関連法)を強行採決して成立させ(今年は何と戦争法制定10周年)、これは形の上では民主政の結果と言える。しかし、日本国憲法9条は少なくとも集団的自衛権の行使は禁じていると理解されていることからすれば、集団的自衛権の行使ができるとする戦争法は憲法9条に反しているから、憲法違反で無効となる。このように国会の多数意思で立法されても、その立法が憲法違反であれば無効になるというのが「法の支配」である。人の権利・自由を守るために権力者の権力行使を縛るのが「法の支配」の要諦なので、権力者が他者に対して「法の支配」を説くのはそもそも筋違いと感じる。
ましてやウクライナ戦争の後に起こったイスラエルのパレスチナ侵攻に対しては、欧米日の為政者は「法の支配」を一切言わない。ウクライナやパレスチナで問われる「法の支配」の法は国際法や国際人権法だから、ウクライナだけでなくパレスチナにも当然等しく及ぶ。ロシアに対して「法の支配」に反すると非難するのに、イスラエルにはその非難をしないのは、明白なダブルスタンダードというほかない。
またロシアをそのように非難する自公政権が、イスラエルをかばう欧米を一切非難せず、自国内では憲法違反の戦争法を強行成立させ、また政治資金規正法違反の裏金で「政治」を回し、それが発覚しても逃げ隠れし続けているのは、これもまた明らかな二枚舌だ。
このように権力者が言う「法の支配」などのりっぱな言葉は、真理の裏打ちがなく、ただ相手を非難し自分の主張を正当化するための方便として使っているだけにすぎない場合が、最近、特に多いように感じる。
他方で、吾こそは法なりを事あるごとに露わにしているトランプ現大統領が「法の支配」を言わないのは、その意味では一貫しており分かりやすい。(本上博丈)