その他
2025.02.12
是枝監督の「怪物」をみて
是枝裕和監督の映画「怪物」をみた。凄まじい映画で、とても揺さぶられた。以下はネタバレも含んでいるのでご注意を。
「怪物」は今のとっても息苦しい世の中を見事に表現している。窒息しかかっている子供たちの過酷な日常をこれでもかとダイレクトに描く。
「普通」でいることを強いられる子供たちが破壊的な衝動に駆られ、その渦に善良な大人たちも巻き込まれていく。そして、大人たちの精神も崩壊していく。
シングルマザー(安藤サクラ)の息子(主人公)が通う小学5年2組のクラスが、この映画の現場だ。
主要な登場人物はいじめる生徒たち(複数)といじめられる生徒(一人)、その狭間で揺れる主人公とクラス担任の先生(瑛太)、あとは校長(田中裕子)だ。
教室で続く暴力的ないじめが、あらぬ方向へと展開し、全く無関係で、指導に熱心だった担任の先生が、退職に追い込まれる事態へと発展していく。
その背後には、思春期に差し掛かった主人公が抱える誰にも言えない複雑な感情と、暴力的な世の中から学校を守り続けることで廃人と化した校長の存在があった。
今の時代は黒か白かを世の中が厳しく判定し、黒であればキャンセルしてしまうカルチャーが大流行中である。まるで疫病のようだ。
私は、人間は状況によって白になるし、黒にもなる。複雑で一貫しない存在だと思ってる。時には魔が差すこともあるし、時には慈愛に充ちた行動もとる。
人間はそうしたことをお互いにある程度理解し、許容し合いながら社会を営んできた。そうした空間がなくなればやがて社会は活力を失い、子供たちも窒息する。
この息苦しい世の中を逆転させる爽やかな風をどうやって吹かせるか、映画の最後の場面はそのヒントをくれる、秀逸な作品であった。
八木和也