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2022.09.06

兼業と労災

最近、労働者の副業を認めるべきか、その場合の労働法の適用関係はどうなるのか議論が噴出しています。

厚生労働省は、2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を出しており、今年2022年7月にはこのガイドラインが再改定されています。
厚生労働省は副業を認めることは当然という前提で、いくつかの職場を通算する場合に労働問題をどう処理するかということに苦心しているようです。

たとえば、兼業していた場合、労災給付はどうなるのでしょうか?

労災は、事業場における事故・疾病に対する補償がなされます。治療費などは実費ですが、休業補償や後遺障害の補償は労働者の平均賃金に基づいて給付基礎日額を算出します

兼業の問題として、大きく分けて、
(1)1つの事業所で労災に遭った場合に兼業先の給付基礎日額を合算するのか
(2)それぞれの事業場での負荷は大きくないけれどもそれぞれの負荷が合算して過労死などの傷病を発生させた場合に労災認定されるか
という2つの問題が発生します。

結論からいうと、2020年9月1日から改正された労災保険法が施行されていて、それによれば、
2020年9月1日以降の労災事故は、
(1)複数の事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する
(2)複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う
ことになりました。

それでは2020年9月1日より前の労災事故はまったく救済されないでしょうか?

その点が問題となった、国・大阪中央労基署長事件(大阪地裁令和3年12月13日)(労働判例1265-47)は、以下の理由で、原則として救済しないと判断しています。

ア 改正前の労災保険法に基づく労災保険給付は、労基法上の災害補償責任を前提とするものである。

イ したがって、労働者が複数の使用者の事業場で就労していた場合における同法上の災害補償責任の基礎となる業務の危険性は、使用者が実質的に同一であるなどの特段の事情がない限り、当該業務自体の性質によって事業場ごとに判断され、業務に内在する危険が現実化して災害が生じたものと認められる事業場の使用者のみがその責任を負う。

ウ 本件では給付基礎日額は通算しない

アの理屈について補足すると、改正後の労災保険法は通算を認めていますが、それは兼業を広げるための政策的な改正なので、改正前の労災には遡及しないと説明しています。

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