その他
2021.08.19
シフト権濫用の法理
コロナウイルス休業に関連して、シフト制を悪用されると休業補償(休業手当)を受けられません。
休業手当は本来出勤すべきときに出勤できなかった場合に受け取ることができるものなので、会社が、シフトを組み替えて、「出勤できなかった日」を「もともと出勤予定でない日」に変更してしまえば、会社は休業手当を支払わなくて済むのです。
横暴です。
しかし、雇用契約書などで労働条件を定める際に、「労働日・労働時間はシフトによって定める」としておけば、シフト決定権を会社が握るので、会社は自由自在にシフトを利用できることになります。
会社にとってみれば、必要なときにシフトを入れ、さほど必要でないときにはシフトに入れない、という計算ずくですれば、コストを徹底的にカットできます。そのために割を食うのは労働者です。
また、シフト変更権を職場支配の道具にするようなブラック企業があります。会社の不正を暴いた労働者、労働組合を結成した労働者には、意図的にシフトを減らして、給料を減らすなどの嫌がらせをするのです。
このように考えると、シフトを会社の自由にしておくことはできません。
法律的に何か考えられないか?
類似するのは、配転命令に関する裁判、判例法理です。
昭和の時代には、配転命令は使用者の絶対的権利で労働者は服従しなければならないものとされてきました。
ところが、配転命令権が会社にあるとしても、会社はこれを濫用してはならない、という裁判法理が形成されました。
東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)は、業務上の必要性のない場合、不当な動機目的をもって転勤命令を出した場合、労働者に著しい不利益を負わせる場合などでは、転勤命令は権利の濫用になることを認めました。
出向については、労働契約法14条で、必要性、労働者の選定にかかる事情その他の事情に照らして権利濫用と認められる場合には無効となることを明記しました。
こうした条文や裁判例からすると、シフト権・シフト編成権についても、権利濫用といえる場合は無効と判断するべきでしょう。
これを、新たに「シフト権濫用法理」と命名すべきかもしれません。