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2020.11.23

弱者こそ真実を武器に!

                         弁護士本上博丈
 朝日新聞夕刊に月に一度,国際政治学者藤原帰一氏の主に国際関係に関する小論が掲載されている。9月16日夕刊「政治家と嘘」の中で「トランプ政権と安倍政権に見られるのは,権力を握った政治家は虚偽を指摘されてもそれを認めなければ虚偽を「事実」に変えることができるという確信である。嘘だという方が嘘をついていると言い張り嘘をつき通せば,嘘は嘘でなくなるわけだ。ナチスドイツやスターリン体制下のソ連,あるいは中国などの全体主義ではなく民主政治の下でも,政治における嘘が日常となってしまう。」と指摘している。「民主政治の下でも」というのが,事態の深刻さを物語っている。日本学術会議の会員任命拒否とその後の政府対応を見ると,菅政権も同じだ。
 日本ではトランプ大統領の嘘発信は多くのマスコミがこぞって指摘し,同大統領が嘘つきであることは大方の共通認識と言っていいだろう。しかし,民主政治の下で嘘を「事実」に変えるという点で共通する安倍政権や現在の菅政権に対しては,日本の多くのマスコミがトランプ大統領に対するのと同じ対応をしているかは疑問だ。そのこともあって日本に住む人の間でトランプ大統領に対するのと同様の共通認識が形成されているとは言えないように感じる。政権に対する高支持率の持続がそれを示している。
 裁判は基本的には証拠によって勝ち負けが決まる。大企業や力のある者は,日頃からコストのかかる証拠書類の確保をきちんと行い,時には会社ぐるみで組織的に自分の都合のいいようにストーリーを修正することもある。これに対して弱者は自己に有利な証拠の確保が難しいだけに,嘘には嘘で対抗したいという誘惑に駆られやすい。しかし,嘘対嘘の戦いになってしまえば,弱者に勝ち目はない。弱者こそ,客観的な証拠は乏しくても,真実を武器に胸を張って正々堂々と戦ってこそ,自分を裏切ることなく,活路を開くことができる。民主主義とは,そういうもののはずだ。(2020年11月23日記)

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