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2025.09.15

弁護士はどうして悪い人の味方をするのかとの問いについて思うこと

私のコラムに弁護士業務を取り上げたことはなかったです。とくにこだわっていたわけではないのですが、弁護士の仕事に関することがひろく興味を持ってもらえる話題だとは思っていなかったからです。

が、ドラマの世界でしか知らない弁護士という仕事の実情について、実は知りたいと思っている方もそれなりにいることを最近になって知ったので、これからは弁護士業務についての話しもたまにはコラムで取り上げようと思います。

第1回目のテーマは、どうして弁護士は悪い人の味方をするのかについて、です。

ただ、このことを分かってもらうためには本が一冊できあがりそうなくらい長いお話しになるので、何回かにわけて書いていこうと思います。今回はアディクションの問題について取り上げます。

アディクションとは依存症のことです。薬物やギャンブル、お酒などが有名ですが、犯罪にからんでもアディクションはたくさんあります。その代表例が、万引きです。

万引きは、薬物事犯や傷害事犯とともに、もっとも数の多い類型の事件ですが、万引き事案の中に、それなりの割合で依存症患者が潜んでいます。

刑事裁判とは、平たく言えば悪いことをした人を非難し、罰を与え、二度と同じことをさせないための手続です。

もちろん、無実を争っている場合もあり、この場合は白か黒かを決める場になるのですが、それは数パーセントもなく、ほとんどが罪を認めている事案です。なので裁判の目標は、被告人にきちんと罪と向き合わせ、反省させ、二度としないことを誓わせることになります。

ところが、依存症患者に対して、法廷で「二度としません」と誓わせたところで、あまり意味がありません。自分一人の力ではどうしようもないからです。医学的なアプローチやカウンセリングなどを通じた広い意味での「治療」がどうしても必要になります。

例えばこんな事案あります。夫は稼ぎのいいエリートサラリーマンで、経済的に不自由のない専業主婦が、スーパーで数百円の食料品の万引きを繰り返してうしまっていました。この主婦は夫から繰り返し暴力を受けており、そのストレスを紛らわす目的で万引きをし、そのスリルが忘れられないうちに万引きが止められなくなってしまいました。

万引き依存症はクレプトマニアと呼ばれ、治療の対象とされています。クレプトマニア専門の病院もあります。

こうしたケースでは、私たち弁護士の仕事は、万引きを繰り返してしまう専業主婦を、医師に診察してもらい、クレプトマニアと診断してもらって、この人には刑罰よりも治療が必要だということを裁判所にわかってもらうということになります。

さらに言えば、夫との関係を解消させ、一人ないし子供たちと一緒に生活できる環境を整えることになります。

被告人となった主婦に対して、ただ非難して反省させてもあまり効果はありません。社会に出てきて、また夫から暴力を振るわれたら万引きに手を染めてしまう可能性が高いです。だから私たちの仕事は、犯罪に手を染めた原因をみきわめ、そこにアプローチをかけていくということになるわけです。

弁護士は、だいたいの場合が悪い人たちを単にかばっているというわけではないです。悪い人を責め立てる役割を担っている検察官に対抗して、より深くその人が罪を犯した原因を探索し、そこを取り除くためにどうすればいいかを考えることを仕事にしています。

弁護士も法律家ですから罪を憎む気持ちは変わりません。万引きで倒産するお店もたくさんあり、社会から失くしたいです。だからこそ、より広い視点、より長期的な視点から被告人の更正を考えていく、そのための計画を立てていく、それが弁護士の仕事なのです。八木和也

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