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2025.03.10

寅さんと幸福追求権

今回も幸福追求権(憲法13条)について取り上げてみたい。私は「男はつらいよ」シリーズが大好きだ。全巻DVDを持っていて、今でも何回も見返している。私は、人情こそが人として生きる上でもっとも大切なものだと信じる古い人間である。
 ただ、今回は寅さんの生き方に幸福を追求するうえで大事なポイントがあると思っており、そのことを書いておきたい。
 寅さんはフーテンで、定職には就かない。風の吹くままに旅を続け、人の集まりがあれば出かけて行って、テキ屋の仕事で日銭を稼ぐ。寅さんにはもちろん学歴もない。中学を途中で辞めて家を出て、その後は風来坊を続けている。
 腹違いの妹さくら、おいちゃん、おばちゃんが寅さんの家族で、柴又で団子屋さんを営んでいる。寅さんは、ふらっと帰ってきて数日滞在して(だいたい喧嘩もして)、またいつもの旅に出かけていく。
 そんな寅さんは、子供の心を持ったまま大人になってしまった人で、美人に出会ったらすぐに一目ぼれする。とにかく女性に弱く、惚れやすい。毎回マドンナに恋をし、その恋が終わるとともに物語りが終わる。
 もっとも、寅さんの恋が終わるのは寅さんが振られるからとは限らない。寅さんは結構モテる。寅さんと結婚したいと思うマドンナも何人かいた。そこまでいかなくても、寅さんのピュアな心と自由な生き方に惹かれていくマドンナはたくさんいる。シリーズの中盤以降は、寅さんが惚れられるバージョンの方がむしろ多い。それくらい「男はつらいよ」とは寅さんが魅力的な男性へと成長していく物語りでもある。
 ところが、寅さんは決してそのマドンナの気持ちには応えない。寅さんは、心底心を通わせた相手でも決して恋を発展させようとはしない。そんな寅さんはいつもこんなことを言っている。「結婚して幸せになりなさい。相手は真面目しか取り柄のない、そんな男を選びなさい」と。
 ここに寅さんの生きる美学があり、幸福に生きるヒントがあると私は思う。寅さんは自由かつ気ままに生きるのが自分の人生であると知っている。だから寅さんは自分で責任を取れないことはやらない。いずれ相手を傷つけることを自覚しているから、自分の人生に他人を巻き込まない。そこはきちんと自分で線を引くのである。
 要するに自由とは責任なのである。これはとても難しいことでもある。けど、幸福に生きるうえでおそらく最も大切なことなのだ。幸福を追求するという意味は、自分の人生に責任を持つという意味に限りなく近いと私は思っている。 
 責任をもてさえすれば、あとは自由に、気ままに、風が吹くままに、生きてもよい。それもまた素晴らしい人生なのである。「男はつらいよ」はそんなことを教えてくれる、名作中の名作なのだ。             八木和也

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