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憲法

2021.09.20

夫婦同姓は日本の伝統ではない

 2021(令和3)年6月,夫婦同姓を強制する現行法を合憲とする最高裁判決が出された。2015(平成27)年12月の最高裁判決に続いて2度目。法務省によると、夫婦同姓を法律で義務付けている国は世界で日本のみとのこと。

 選択的夫婦別姓に反対する論拠として,夫婦同姓は日本の伝統という話がある。しかし,それは歴史的事実ではないらしい。2021年7月6日付け朝日新聞に掲載された,この点についての政治学者中村敏子さんの小論を紹介したい。

ア 江戸時代に名字を持っていた武家の女性は結婚後も実家の名字を名乗っていた。

イ 1870(明治3)年平民に名字の使用が許可され,その翌年戸籍法を定める際に妻の結婚後の姓をどうするかが問題になり,1876(明治9)年,妻は結婚後も「生家の氏」をとなえるべきものと定められた。姓はそれぞれの人の出自を表し,結婚後も出自に変わりはないと考えられていたようだ。

ウ 1898(明治31)年「妻は婚姻によりて夫の家に入り」「その家の氏を称す」と定める明治民法が制定され,我が国で初めて夫婦同姓が導入された。これは「夫婦一体」という結婚観によって同姓を強制していた西洋の影響が大きいとのこと。

エ 第二次大戦後の1947年(昭和22)年改正民法でも夫の姓の原則的強制はなくなったものの,明治民法の夫婦同姓が引き継がれ,今日に至っている。

 中村さんによれば,このように夫婦同姓制度は,西洋の影響を受けた明治政府によって作られて現在まで続くものであり,「日本の伝統」ということはできない。女性運動の成果により他国では解消されたのに,日本だけが今でも同姓強制が続いている,とのこと。

 明治民法以前の夫婦別姓では姓は家制度を前提として出自=出身となる家を示すべきものと考えられ,だからこそ,夫婦別姓が強制されていた。これに対して,現在制定が求められている選択的夫婦別姓では姓は個人のアイデンティティーに関わるものと考えられ,だからこそ,同姓にするか別姓かは個人の選択の問題であって,法律がいずれにしろ強制すべきことではないと考えるのだろう。選択的夫婦別姓制度を支持するか否かについては,歴史的事実経過を正しく見ることができるかどうか,そしてその事実経過の背景にある個人の尊重の進展を積極評価するか否かにも関わってくるように思う(弁護士本上博丈。2021年9月20日記)。

 

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