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行政訴訟

2025.06.30

生活保護減額取消訴訟の最高裁勝訴判決に思う

 最高裁第3小法廷判決は2025年6月27日、厚生労働大臣が2013年~15年にデフレ調整を理由に生活保護費のうち食費や光熱水費などの「生活扶助」の基準を平均6.5%引き下げ、各自治体がこれに従って各受給者に対して生活保護費の減額処分(行政処分)を行ったことは生活保護法8条2項違反であるとして原告受給者に対する減額処分の取消判決を出した。最高裁が生活保護の一般的な基準について違法判断を示したのは初めてだ。
 生活保護法8条2項は、保護基準は保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすものとすべき旨を規定している。しかし、厚生労働大臣がした上記の基準減額改定は、それまでの基準改定の考え方を変更して物価変動率のみを直接の指標として用いるデフレ調整に改めたのに、その変更に合理性があるかについて専門的知見による検討を経ていないという判断の過程及び手続に誤りがあったとして、最高裁は厚生労働大臣の基準改定に関する判断には裁量権の逸脱又は濫用があると判断した。
 この保護基準引下げの違法を訴える訴訟は全国29都道府県の1000人を超える受給者が2014年から31地裁に提起し、これまでの地裁判決、高裁判決では判断が分かれていた。今回の最高裁判決まで提訴から10年以上もの歳月を要し、その間、受給者は生存権を侵害された状態が続いたことになる。現代日本でこのような国家による極めて深刻な人権侵害が起こり、それが10年以上も続いたという事実をどのように考えればよいのだろう。ましてや、その間に原告232名が亡くなられている。
 このような違法な基準引下げが行われたのは、2012年12月の総選挙で当時野党だった自民党が「生活保護費10%削減」を公約に掲げて政権奪還を果たし、2013年1月安倍政権は史上最大の保護費削減を打ち出し、これに呼応した自民党国会議員が生活保護バッシングを展開、少なからぬマスコミもこの流れを広め、厚生労働省が政権の意向を忖度したというものだった。
 国民のための政治をすることができない、する気のない権力者がそれでも求心力を維持し、高めるために行う常道は、弱者をスケープゴートにして分かりやすい悪者たたきを焚きつけ、権力者にとって不都合な真実から目をそらしながら、お祭り騒ぎを起こすことだ。最近は外国人が標的にされている節がある。以前と違って、焚きつける側は耳に入りやすい言葉だけでなく、フェイク動画なども駆使してくるので、よほど注意が必要だ。
 生活保護訴訟の話に戻すと、全国31地裁に1000名を超える原告が提訴するという原告団、弁護団の訴訟戦術、そして苦労の割に経済的メリットのさほど大きくないであろう訴訟に10年以上取り組むという粘り強さに本当に頭が下がる。最高裁判決を見ただけでも、違法を検討する判断内容は非常に専門的で、しかもそれを裁判所に分からせていなければならないのだから、弁護団の苦労は相当なものだっただろう。こういう人たちの闘いの積み重ねが日本の人権水準を維持向上させていくのだと思う。心から尊敬する。(本上博丈)

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