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2025.11.15

台湾有事は存立危機事態ではないこと

高市総理の発言が大いに波紋を広げているので、冷静な議論を求めるべく、法律家の視点から、この発言の問題点を整理させてもらいます。

「存立危機事態」とは、武力攻撃事態法2条4号で「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険ある事態」と定義されおります。

これは集団的自衛権行使を容認する規定でありながらも、それに絞りをかける規定でもあります。したがって要件が①「他国への武力攻撃」があること(集団的自衛権行使要件)、さらに②我が国の存立が脅かされて、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(絞り込み要件)と、二つに分かれております。

今回の「台湾有事が存立危機事態となり得る」との高市発言は、普通に解釈すれば、中国による台湾への進攻が①「他国への武力攻撃」にあたり得るということと、そのことが場合によっては、②我が国の存立が脅かされて、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があることにもあたり得るということを述べたことになります。

特に問題となるのは①の要件に絡んでです。高市発言は、日本は台湾を一つの独立した「(他)国」で、かつ「我が国と密接な関係ある」国であるとまで言い切ってしまったかのような発言になっています。しかし、国際法でも台湾は国とはみなされておりません。国連にも加盟できておりません。この点で、国際法から見ても高市発言はおかしいということになります。

そしてなによりも、中国は、他民族国家でありながらあれだけ広い国土を共産党独裁という歪んだ形で統治しております。その体制を維持するうえで、絶対譲れないのが「一つの中国」です。これが破綻すれば、分裂の危機に瀕するからです。だから中国は台湾独立を決して許しません。また、この問題への他国からの介入発言も決して容認しません。アメリカもこれを分かっており、だから中台問題について「平和的解決を望む」としか言及しておりません。

高市発言を善解すれば、台湾有事に米軍の介入があり、かつ米軍への攻撃(要件①)及び日本のシーレーンの阻止(要件②)があれば、「存立危機事態」ともなり得るという意味で発言したかったのかもしれません。が、アメリカが台湾有事に対して軍事介入に踏み切ることを想定するなど、アメリカの頭越しには決してできず(しかもアメリカは決して認めない)この言い訳も効きません。

つまり、高市発言は中国の発火点であるところの「一つの中国」論を易々と踏み越え、中国の立場から言えば内政問題であるところの中台問題へ日本が武力行使で介入することもあり得るとまで言ってしまったわけです。

対立の激化を避けるためには高市総理がこの発言を「撤回」するしかありません。ただ、ひとこと「勉強不足でした」と言えば収まるはずです。

大阪総領事の反発が不穏当すぎたことなどで、問題が余計にややこしくなっています。

が、このまま激化すれば中国で働く数万の日本人たちにも大きなリスクを負わせることになりかねません(中国は政治的逮捕も普通にあります)。ぜひとも冷静な議論へと引き戻すために総理が決断して欲しいです。

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