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2021.01.08

労働者の自由な意思11/16分

退職、賃金の減額など労働者が不利益な合意書などの書類を交わしてしまうことがあり、裁判で争われます。

最近の裁判所は、これまでと異なって、「労働者の自由な意思」で不利益な合意をしたか判断するようになっています。

その鏑矢が、山梨県民信用組合事件(最高裁判決H28.2.19)です。

この最高裁判決は、

1.労働条件の変更が賃金や退職金である場合、変更を受け入れる労働者の行為があるとしても、その行為をもってただちに労働者の同意があったとみるのは相当ではなく、変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重におこなうべきである。

2.就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、変更を受け入れる労働者の行為の有無だけでなく、その変更により労働者にもたらされる不利益の内容および程度、労働者の行為がされるに至った経緯およびその態様、その行為に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等に照らして、その行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきである。

といっています。

最高裁がこのように判断したのは、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があるからです。

山梨県民信用組合事件の最高裁判決から4年が経過して、多くの裁判所が、いろいろな場面で、山梨県民信用組合事件の判決を利用することが増えてきました。つまり、不利益合意の全てに適用するながれです。

法律雑誌「労働判例」の最新号(1228号)に、おもしろい判決が載っていました。

退職した直後に、覚書をかわして、退職従業員が業務上の損失補てんを約束した、というものです(P興産元従業員事件、大阪高裁R2.1.24)。

大阪高裁は、大阪地裁判決を取り消して、元従業員を逆転勝訴させました。

その直接の理由は、違約金の予定を禁止した労働基準法16条の趣旨に反するので公序良俗違反である、というものでした。

しかし、その判旨の中に、「控訴人(元従業員)に一方的に不利益な内容であって、既に退職していた控訴人が本件覚書にかかる本件合意をする合理的理由を何ら見いだせない」といって、「本件合意は、控訴人の自由な意思によるものとは到底いえないというべきである」という説明があります。

これは、まさしく、山梨県民信用組合事件の判決にある、労働者にとって不利益な合意については「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきである」という考え方を敷衍したものといえます。

「労働者の自由な意思」は、重要なキーワードです。

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