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2025.04.12

チャプリンの独裁者を観た小5年生の深い洞察力

 朝日新聞の毎週木曜夕刊に「三谷幸喜のありふれた生活」という連載エッセイがある。2025/4/10は「息子と観る「独裁者」の深さ」というタイトル。幼稚園のころからチャプリン(初期の短編喜劇)にはまっていた息子が小学5年生に進級した記念に「独裁者」を観せたという。このエッセイで認識を新たにしたが、チャプリンが「独裁者」を作ったのは1940年で、ヒトラーもナチスドイツも隆盛期。1939年9月にドイツのポーランド侵攻で第2次世界大戦が始まって、まだ間のないころだった。チャプリンは命の危険と引き換えにこの映画を作ったのだという。当時のチャプリンの頭の中を想像すると、すごく苦しい。でもチャプリンは制作して全世界に配信した。
 有名なラストシーンでは、チャプリン扮するユダヤ人の床屋がヒトラーそっくりの独裁者ヒンケルと入れ替わって、居並ぶ側近を従えて万単位の大群衆の前で世界に向かって6分間にわたる演説をする。「・・・奴らは嘘つきだ。奴らは約束を果たさない。これからも果たしはしない。独裁者たちは自分たちを自由にし、人々を奴隷にする。今こそ、闘おう。約束を実現させるために。闘おう。世界を自由にするために。国境のバリアをなくすため。欲望を失くし、嫌悪と苦難を失くすために。理性のある世界のために闘おう。科学と進歩が全人類の幸福へ、導いてくれる世界のために。・・・」
 僕はこのシーンを観て、演説する床屋がどうなるのか少しはらはらしながらも、戦争や独裁者を否定し自由と友愛を訴える崇高な内容に感動しながら溜飲を下げて終わっていたように思う。ところが、歴史的背景をまだ知らない小学5年生は「この床屋さんはきっとこの後、殺されるよね。それが分かっていても、ヒンケルになりすまして演説したかったんだよね。」と感想を述べたという。映画を単に傍観するのではなく、その場面の中に演説する床屋として自分も入って、場面をリアルに想像して観ていたからこそ出てくる感想だろう。「独裁者」を作ったチャプリン自身の覚悟も表していたのだ。こういう洞察を忘れないようにしたい。(本上博丈)

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