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一般民事・家事

2022.04.11

元検数員のアスベスト被害、勝訴判決!

                                                                                                                                弁護士 野 上 真 由 美

1 令和4年3月31日、全日本検数協会の検数員として神戸港でアスベストの検数に携わり、退職後、肺癌に罹患した3名の原告が全日検を相手に損害賠償請求をした事件の判決がありました。

     検数とは、船積貨物の積み込み又は陸揚げを行う際にその貨物の個数の計算又は受け渡しの証明をする作業で、船会社・荷主等からの委託を受けて、船舶による輸出入貨物の積み下ろしに際して、どのような貨物(品名・荷印・荷姿・荷番)をどれだけ、どのような状態(損傷の有無・程度)で受け渡したか又は積み込んだかを正確に確認し、証明する業務です。

  原告らは神戸港で輸入の陸揚げに関する検数業務に約40年携わり、アスベストに大量に曝露しました。

2 本件の主な争点は、①原告らの石綿への曝露の有無と程度、②全日検の安全配慮義務違反です。①に関して、本訴訟以前、全日検は原告らの労災申請手続きや健康管理手帳取得に対し、全日検は原告らが被告に在籍していたことは認めるが、石綿を扱っていたか不明であるとし証明を拒否する態度を取ってきました。また、本訴訟では検数は「概算」でよい、船倉内に入って検数作業は行わず、デッキ上で検数をすればよいと検数の趣旨を没却するような主張を展開し、証人尋問ではアスベスト検数業務をしたことがない労務部長を出廷させました。しかし、今回の判決で、「原告らを含む検数員は、デッキから最大で10m程度下方の船倉内において、こぼれて荷物に付着した石綿を手で払って荷印を確認したり、荷役作業員がモッコを吊り上げて荷物を移動させたりする際などに、石綿に触れ、あるいは、モッコに付着した石綿が船倉上部から降り落ち、石綿が立ち込める状態の中で検数作業をすることにな」り、多量の石綿に曝露したと認定しました。また、②については、昭和35年以降、全日検は「原告らをアスベストに係る貨物の検数作業に従事させることにより、その生命・身体に重大な影響を及ぼすことについて予見可能であり、予見すべきであった」にもかかわらず、検数員に「軍手とガーゼマスクを支給したのみで、防塵マスクや防護服の支給はせず、石綿の危険性について安全教育をしなかった」ことから全日検に安全配慮義務違反があるとし、原告ら3名の請求をほぼ全額認めました。

3 原告ら3名は高齢である上、3名とも肺がんが再発し、闘病生活を余儀なくされています。そこで、全日検に控訴を断念させるべく、令和4年4月6日、原告2名と原告ら代理人2名と原告らを支援している元検数員の方2名で、全日検の本社を訪問しました。全日検側は労務部の副部長が応対しました。そこで、原告ら2名は自身の健康被害の内容や控訴を断念してほしいと強く申し入れ、支援者からもこれまでの全日検のやり方を批判しました。原告1名は体調不良のため訪問できなかったため、自身の思いをまとめた文書を代理人が読み上げ提出しました。代理人らから副部長に対し、原告らの思いを聞いてどのように考えるのかと尋ねましたが、個人の判断で答えることはできないの一点張りでした。

4 判決で全日検の責任が明確に認められたのはこれが初めてです。元検数員の方にはこれからも健康被害が出るかもしれず、その時にこの判決は大きな意味を持ちます。

  全日検にはこの判決を重く受け止め、控訴を断念してほしいと心から願っています。

  今回の裁判は、当事務所の八木弁護士と野上が担当しました。

                                                                                                         以上

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