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災害は忘れたころにやってくる。防災対策は楽しみながら。

弁護士 萩田満

明けましておめでとうございます。今年も良い年でありますようにと願いつつも、心配になるのは自然災害が繰り返されていることです。

昨年も、熊本、鳥取で大きな地震があり、さらに福島では東日本大震災以来の大きな余震がありました。地震、津波、火山の噴火だけでなく、台風、豪雨、季節はずれの大雪など、よくここまで異常気象が続いたものです。

自然災害の原因を分析することやましてや予知するなどというのは現代の科学をもってしても100%ではありません。そうすると、来たるべき大災害にどれだけ準備をしているか大事な問題だと思います。

さて、我が家でもまじめに防災対策に取り組もうと思い、各種の訓練・講習に参加しています。近年は防災対策も大きく変わっているようです(阪神大震災の頃と比べても)。特に目を見張るのがアイテム(機器)です。

たとえば、単1電池使用の重い白熱灯の懐中電灯は、小型でエネルギー効率の良いLEDライト(ヘッドランプがベター)に取って代わられてきています。衣類も軽量かつ防寒の新素材が増えてきています。

そして何より驚いたのは、携帯・スマホの発達です。これを使えば必要情報がすぐに入手できる上、気象情報・緊急速報・地図・ラジオ・フラッシュ等は専用アプリがたくさんそろっています。海抜を計測するアプリ、がれきの下になっても居場所を知らせるアプリもあります。東日本大震災で役立ったというのは本当だと思います。こうした防災(に役立つ)アプリはどんどんダウンロードしています。とにかく便利なので皆様にもお勧めします。ただし、すぐに電池がなくなるので充電器も必須です。

ところで防災関係のアイテムは、登山やアウトドアと重なり合うことに気づきました。子どもが大きくなって登山やキャンプをまた再開するようになって、アウトドア用品などの最近のめざましい変化に日々驚いていたところです。そして、アプリ探しなどは、結構おもしろい。

防災対策や避難訓練が苦痛では仕方ないので、アウトドアを楽しんだり、アプリ探しを楽しみながら、日頃から防災対策を楽しんでいます。

2017年

君死に給ふ(たもう)ことなかれ

〜安保関連法による自衛隊の「南スーダン派遣」によせて〜

弁護士 羽 柴 修

【神風特攻竜虎隊と赤トンボ】

「君死に給ふ(たもう)ことなかれ」は、与謝野晶子が日露戦争に従軍した弟のことを思って詠んだ反戦詩「ああ弟よ、君をなく君死に給ふ(たもう)ことなかれ・・親は刃(やいば)をにぎらせて人を殺せとおしえしや・・」として有名ですが、この痛切な思いを冠した古川薫氏(山口新聞編集局長を経て小説家となり、1991年『漂泊者のアリア』で第103回直木賞受賞)の小説(2015年7月25日第1刷)のお話を少し。特攻(神風特攻竜虎隊)にかかわる物語です。終戦間近にはあらゆる艦船や飛行機が特攻(特別攻撃)兵器として使用され、飛行機に括りつけられ人間操縦爆弾と言われた「桜花」のようななものまで作られました。パイロットを育てるための練習機も特攻機として使用され、それが通称「赤トンボ」と呼ばれていた九三式中間練習機です。翼幅11.00m、全長8.05m、全高3.20m、翼(布張りです)面積27.7㎡の小さな双翼機です。この赤トンボは、昭和9年から日立・富士・中島・三菱各社で5591機生産されたのですが、海軍はミッドウェー海戦以降、主力航空母艦と多くの飛行機を失い、沖縄戦当時には特攻として使うゼロ戦などの実用機がないため、各地に残っていた赤トンボをかき集めたのです。

赤トンボの特攻基地が宮古島、ここから沖縄慶良間沖の米軍艦隊に突入するのですが、本島までおよそ300キロ、この小さな赤トンボに250キロの爆弾を文字どおりくくりつけ、制空権もないから闇に乗じて、米軍レーダーに捕捉されないよう低空飛行でヨタヨタと米軍艦船に忍び寄る。燃料の半分が代用燃料のアルコールであったため故障で何回も帰還(引き返し)、何度も出撃させられる18歳前後の予科練飛行兵の苦悩が描かれています。引き返してきた特攻の少年非行兵を辱めたうえに、「お前たちのあとに続く」と言いながら特攻の号令をかけて次々と若者を死地に追いやった末に、自らは終戦を迎えて戦後を生きた人々への怒りなどなど・・。戦争の理不尽さ、悲惨さや無念の想いを私たちはたかが70年程度で忘れてはならないのです。

【君死に給ふ(たもう)ことなかれ】

昨年11月20日、安保関連法制に基づく新任務を付与される青森市の第9師団所属の陸自先発隊が南スーダンの首都ジュバに到着しました。12月12日から同師団を基幹とする部隊(最終的に350名)に指揮が移り、「駆けつけ警護」と「宿営地の共同防護」が実施可能とされています。昨年7月の反政府勢力と政府軍の戦闘などが発生すると否応なく巻き込まれ、自衛隊による武器使用=武力行使が新任務により行われる可能性があります。稲田防衛大臣は「医官一人を増員、外科系2名 内科系2名で4人とした、救急用品8品に新たに眼球保護具止血帯1本追加、米陸軍と同様の機能を持たせるよう品目の追加を行った」と説明。おいおい米軍と同じことをさせるのか、できるわけないやんこの装備でという気持ちがないまぜになります。「憲法違反の安保関連法制の廃止」という声を一層強くとしないといけないと思いますが、こんなアホな政府に従う必要はありません、「君死に給ふ(たもう)ことなかれ」と願うばかりです。

2017年

「共謀罪」は凶暴だ!

弁護士 西 田 雅 年

【安倍政権が狙う共謀罪】

安倍政権は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックとテロ対策を理由に、いわゆる「共謀罪」法案の提出を狙っています。共謀罪は、実際に犯罪行為をしなくても、二人以上の「合意」があれば犯罪とする法案で、過去3回(2003、2004、2005年)国会に提出され、市民からの強い反対運動にあい、いずれも廃案になったといういわく付きの法案です。今回提出予定の法案は、今までの批判を意識して修正をした装いをこらしています。しかし、本質である危険性は何ら変わっておらず、相変わらず凶暴な内容となっています。

【共謀罪の危険性】

まず第1に、「共謀罪」が具体的な行為を罰するという近代刑事法の原則に反して、心の中を処罰の対象とする危険な本質を持っているからです。本来、心の中でどんな悪いことを考えても処罰はされませんし、してはいけません。憲法で保障されている思想良心の自由を侵害するからです。

第2に、修正されているのは、「合意」を「計画」と言い換え、また「準備行為」を必要とするとしていますが、「計画」とか「準備」といっても、依然としてその範囲は曖昧で広範になっており、何ら限定する意味をもっていません。

第3に、犯罪の主体は、従前単に「団体」とされていましたが、修正によって「組織的犯罪集団」に限定したとされています。しかし、ある団体が犯罪を目的として実行を計画した時点で「組織的犯罪集団」となり得ますので、何の限定にもなっていません。市民団体や労働組合が犯罪を「計画」した時点で犯罪の主体とされるわけです。

第4に、法案が対象とする犯罪は、現在では700近くあると言われています。そのため、どんな犯罪が取締の対象となるのか曖昧です。そこで、私たちには非常に分かりにくくなり、何を「計画」してはいけないか、予測ができにくくなります。

第5に、このような「共謀罪」を取り締まるためには、客観的な行為がありませんので、今までの捜査手法では把握できません。そのため、盗聴とか「スパイ」を潜入させることによって、日常的に監視することが最も有効な手法となります。そうなれば、私たちの日常生活が常に監視されることになりかねません。昨年の刑事訴訟法の改正により、盗聴の対象犯罪が広がり、また盗聴方法も警察にとって使い勝手の良い制度に変更になりました。さらに、「密告」を奨励するような「司法取引」も新設されました。そのため、捜査機関が悪用する危険があります。

【監視社会の恐怖】

以上のとおり、「共謀罪」はテロ組織の犯罪だけに向けられたものではなく、私たちの日常生活が監視されるおそれが十分にあります。そして、今後予想される「戦争する国」づくりに反対する市民の運動に向けられることも十分に考えられます。

それだけに、「共謀罪」は凶暴なのです。

2017年

わが家にジャッキーがやってきました

弁護士 八木和也

皆さま、あけましておめでとうございます。正月早々私事ですが昨年4月に家族が増えました。これまで嫁と息子(9歳)の3人家族だったのが、ミニチュアダックスフンド(1歳)のジャッキーが我が家にやってきたのです。

ジャッキーがわが家にやってきて、私たち家族の生活はだいぶ変わりました。そこに何か大事なものが含まれている気がしたので、あえて今年のニュースのネタにさせていただきます。

これまでは私が仕事から帰宅(平均10時半くらい)しても、家は静まり返っていました。嫁も息子と一緒に寝てしまい、起きてくることはまずありませんでした。作り置かれた晩御飯をチンし、晩酌をしながらテレビをみて過ごしていました。

が、ジャッキーが来てからは違います。私が家の鍵穴に鍵をいれた瞬間に「わん、わん、わん、わん」ととても大きな鳴き声が家の中から聞こえてきます。そして、私が玄関ドアをあけると、全速力で私のところまで走ってきて、私に飛びついてきます。さすがにこの鳴き声には嫁も勝てないようで、眠い目をこすりながら起きてきます。そして、私がジャッキーを可愛がっている間に食事の支度などを始めてくれます。晩酌にまでも付き合ってくれるときもでてきました。深夜にテレビをみることは全くなくなりました。

朝は早いです。5時半には始まります。家族みんなで同じ部屋で寝ているのですが、ジャッキーは5時半には起きて、周りをカチャカチャと歩き始めます。カチャカチャとは爪でフローリングを鳴らしながら歩く音です。放置しておいたら、おしっこやうんちなどそこら中に始めます。朝、それを発見したら嫁が激怒します。下手をしたら一緒に寝ることも禁止されかねません。ので、起きざるを得ません。そして真っ暗ななか散歩につれていきます。ジャッキーは走るのが好きなので一緒に走ってます。でも、毎日はつづきません。寝過ごして家がうんちまみれになってしまうこともあります。まだまだ修行が足りません。

休みの日の過ごし方もすっかり変わりました。これまでは息子が電車が好きなこともあり、電車に乗ってどこかに出かけることが多かったです。嫁は買い物が好きなので、元町の大丸に出かけることもありました。が、いずれもジャッキーと一緒にはできません。ので、電車の旅もほとんどなくなりました。買い物も必要最小限になりました。変わりに公園へジャッキーと一緒に出掛けることになりました。公園でジャッキーと息子が走り回っているのをみるととても幸せな気分になります。

うちでは夏休みには毎年どこかへ旅行にいっていました。新幹線にのって目的地まで行き、ホテルにとまって観光地をめぐってという感じの旅行でした。が、今年の旅行は全く違いました。兵庫県の養父市にあるキャンプ場へキャンプに行きました。もちろんジャッキーを連れてです。自分たちでテントを張り、バーベキューをし、散歩をしたり、山登りをしたりして過ごしました。この日の夜は大雨になり、テントにまで雨水が浸水してきました。嫁や息子はとても怖がっていて救助を呼ぼうかと話していました。が、ジャッキーはその側で熟睡していました。私もそれを見て覚悟を決めて寝ることにしました。雨はそのあとしばらくしてやみました。

とまあ、とりとめのないことを書いてきましたが、一言でいえば都市型ファミリーだったうちの家族が、ジャッキーという元野生動物が家族として加わることで、いくぶん自然と触れ合う時間が増えました。私自身のストレスも減った気がします。あと、余暇にかかるコストも減りました。ありがたいです。今年も家族とともに元気にがんばります。よろしくお願いします。

2017年

電通過労自死事件に思う

弁護士 本上博丈

1 2016年10月、大手広告代理店の電通の新入女性社員高橋まつりさんが入社9か月後の2015年12月25日に自死したこと(当時24歳)について労災認定されたことが大きく報道された。

過労自死として労災認定された主な理由は、11月上旬にうつ病を発症していたものと推定されたうえで、その前1か月に100時間を超える残業をしていたこと、並びに上司によるパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを受けていたことだった。その前1か月というのは10月初めなので、それはすなわち入社後6か月間の試用期間を終え本採用された直後から過労自死に追い込まれていったということになる。高橋さん自身が遺していたツイッターでのつぶやきを見て当時の状況を想像すると、いたたまれない気持になる。

10/21〜「もう4時だ 体が震えるよ… しぬ もう無理そう。つかれた」
10/30〜部長「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」
11/10〜「毎日次の日が来るのが怖くてねられない」
12/9〜「はたらきたくない 1日の睡眠時間2時間はレベル高すぎる」
12/16〜「死にたいと思いながらこんなにストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか。」
12/17〜「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな。」
12/20〜「男性上司から女子力がないだのなんだのと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である。」

2 僕はこの報道に接した時、「えっ、またか」と叫んでいた。電通では、1991年8月にも入社後1年5か月の大嶋一郎さん(当時24歳)が過労自死し、電通の安全配慮義務違反による損害賠償責任を認める著名な最高裁2000年3月24日判決が出されていたからだ。過労自死についての企業責任を初めて認めた最高裁判決で、その判決の「使用者は業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」との規範は、過労死事件の根本原則になった。

この大嶋さんの過労自死事件でも、月平均残業時間が147時間にも及び、死亡直前の7、8月は3〜4日に一度の割合で翌朝6時半まで残業して、睡眠時間は連日30分〜2時間半ということが続いていた。また宴席では上司が革靴に入れたビールを飲むように命じ、飲まなければ靴のかかとで叩くという信じがたいパワーハラスメントもあった。若手社員に対する異常な長時間労働と上司のハラスメントによる精神疾患発症という点で、高橋さんの事件も瓜二つだ。大嶋さんの事件で電通は、判決確定後の遺族への謝罪文において「労務管理の徹底と健康管理の充実」を約束していた。しかし、25年近く経って全く同じ加害行為が繰り返され、何も変わっていなかったことが白日の下にさらされた。

3 僕は弁護士になった1989年から兵庫県での過労死110番と過労死事件への取り組みを続けてきた。過労死を防止する総合的政策の実施は「国の責務」と明記する過労死等防止対策推進法が全会一致で2014年6月成立し、同年11月から施行されている。しかし、電通に限らず日本の企業では過労死事件はなくならない。法規制として残業時間の上限規制やインターバル時間の義務づけが必要なことは当然だが、ソフトの面ではおそらくは3つのことが大事だと思う。

1つ目は、企業は力関係で仕事をさせるのではなく、労働者は過剰な責任感で仕事をするのではなく、仕事はあくまでも労働契約という互いに合意した約束事に基づいて行われるべきものだという原則を確認し意識し続けること。Aという物1個を1000円で1個だけ売り買いするという約束をしたのに、後になって買主が一方的にA2個で1000円にするとか(賃金不払い残業)、売主の承諾なく2個買ったことにする(残業の強制)と言われれば、売主としてはおかしい、そんな勝手は認められないと思うのと同じように、企業も労働者も労働契約による権利義務ということを肝に銘じるべきだと思う。

2つ目は、自分の人間としての尊厳を守るためには、他者の尊厳も認めてリスペクト(人として尊重すること)する、リスペクトは相互依存性があり、それをしないと他者からもリスペクトされないということを意識すること。ハラスメントは支配・被支配の関係に陥らせ、被害者の人間としての尊厳が損なわれることはもちろん、加害者も他者からのリスペクトを失うことになる。電通の上司が、皆さんの目にどのように映るかを考えていただきたい。

3つ目は、過労死するのは往々にしてまじめな人が多いのだが、自分一人で抱え込むのではなく、しんどいことや過重労働への疑問を日頃から第三者に話すこと。本来は労働組合がその役割を第一番に果たすべきだが、電通事件でもそうだが、残念ながら、過労死事件のほぼ全部で労働組合の影は薄いのが、これまでだ。むしろ異常な36協定の締結当事者になって加害に手を貸している例も少なくないくらいである。その意味では、全国各地の「過労死を考える家族の会」や全国及び各地にある「過労死等防止対策推進センター」などの相談活動に期待したい。ちなみに兵庫家族の会は電話078-241-1898、兵庫センターは電話078-371-0171。

2017年

まっ黄な花弁―事務所の向日葵―

弁護士 野田底吾

事務所入口に先日まで鉢植の向日葵(ひまわり)が置かれていた。事務員さんが出入業者から貰った種に水をやっていたところ、季節外れの10月に高さ1.5m程の茎に成長し、直径5cm程の小さな花をつけた。そして鮮やかなまっ黄の花弁が事務所内で輝き始めた。私がこのまっ黄な花弁で思い出したのは、広島の作家・原 民喜(明治38年〜昭和26年)の代表作「夏の花・心願の国」(新潮文庫)である。

原は慶応大文学部を卒業後、昭和8年永井貞恵と結婚。東京での貧しい新婚生活も束の間、やがて妻は肺結核を発病し長い療養生活を始める。治療も甲斐なく昭和19年9月末、妻貞恵はこの世を去った。上記作品の前半部分にはこの間の細やかな夫婦愛を描いた「苦しく美しい夏」などの数点が収録されている。

そこでは、焼け付く様な真夏の太陽をバックに『病院入口の庭ではカンナが赤く天をめざして咲いていた』とか、『(亡き妻を載せた)霊柩車が火葬場の入口に停まると・・花をつけた百日紅(さるすべり)やカンナの紅がてらてらした緑の中に激しく燃えていた』等、赤や緑の色彩が妻への追慕を象徴するものとして描かれ、やがて後半部分の原爆による「壊滅の序曲」へと繋がって行く。

妻を亡くした半年後の昭和20年2月、原は妻の骨壺を抱いて空襲に怯える東京から郷里広島に戻る。そして妻の初盆を控えた8月4日早朝、花を持って妻の墓参に出かける。

『その花は何という名称なのか知らないが、黄色の小辨の可憐な野趣を帯び如何にも夏の花らしかった。炎天に曝されている墓石に水を打ち、花を二つに分けて左右の花立に差すと、墓の表が何となく清々しくなった様で、私は暫く花と石に見入った』。静謐・・・

広島に原爆がさく裂したのは、その翌々日の6日であった。偶々、厠にいた原は、『頭上に一撃が加えられ、目の前に暗闇がすべり墜ちた・・嵐の様なものの墜落する音のほかは真っ暗で何もわからない。・・わあーという自分の声をざあーという物音の中にはっきり耳に聞き、眼が見えず悶えていた』。

幸いかすり傷程度で済んだ原は、修羅場と化した市中から山手の神社まで逃げのび夜を明かす。この時、原が目撃した市中の地獄絵が作品「夏の花」に詳細に記述されている。

周知の如く地上600mで炸裂した原爆は、直径300m摂氏6000度の巨大な火球となって地上を襲い、一瞬のうちにガラス瓶を溶かし屋根瓦を泡立たせ、生物を水蒸気にした。きのこ雲が去った街には、強烈な真夏の太陽がギラつく真っ黄な光線の下、瀕死の被災者が流す紅色と累々と重なる白骨が満ち満ちていた。前半部分の静けさの陰に、こんな恐ろしい地獄絵が潜んでいたのである。いったい墓参の時の静けさや亡き妻は何処へ行ってしまったのか・・。

「核兵器が人間にもたらした脅威、悲惨は、そのおお元の核兵器が全廃されるまで償われ拭い去られる事はない。我々は、原民喜が我々を置き去りにして出発した地球に、核兵器について何一つその脅威、悲惨を乗り越える契機を持たぬまま赤裸で立っているのである」(大江健三郎)。

カープ優勝の陰に、風化しつつある広島の声があることを忘れない様にしたい!

2017年

ともに生きる、生きられる

弁護士 野上真由美

新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

みなさんは初詣に行かれますか?どのようなお願いごとをされますか?お願いごとは色々ありますが、健康で過ごせることをお願いされる方は多いと思います。誰もが望む健康ですが、身体的疾患だけでなく、精神疾患は誰もがふとした拍子に発症する可能性はあります。精神疾患は外部からの判別は難しいため、精神疾患をもつ方は家族や勤務先等からの理解を得られずに苦しむ場合があります。また、症状が進行すると精神科病院に入院する場合もありますが、精神科病院や精神疾患への偏見から、社会復帰できる状態であるのに入院を引き延ばされ、社会復帰できず、長期入院をしている間に生活能力が失われて、結局生涯を病院で終えるという方もおられます。兵庫県下の病院で調査したところ、慢性期の入院理由のうち約76%が、病状が悪い以外の理由、例えば家族が反対している、お金がない、住居がないなどが理由となっているとのことでした。要するに、環境調整がうまくいかないことで強制入院となっている方が多数存在するということになります。

私は、兵庫県の精神医療審査会の委員として、医療保護入院や措置入院(強制入院の種類)の適否等を審査しています。入院時は医療保護入院の要件を満たしていたとしても、後日、退院請求の申し入れが兵庫県精神医療審査会にされることがあります。その場合、精神医療審査会の委員が病院に派遣され、入院患者本人やご家族、主治医やケースワーカーなどから意見を聴取し、医療保護入院継続が適当か否かを判断します。意見聴取の結果、病状が良くなく、医療保護入院継続が適当であると判断されることも多いです。しかし、現時点で入院継続が必要であったとしても、早期の退院を目指すべきなので、主治医等に退院に向けた調整を図るように付言することがあります。また、実際に調査をした案件では、病名はなく治療はしていないが、ご家族が強く反対していることが主な理由で医療保護入院を継続しているというものがありました。このような案件は、審査会で入院継続は不適であると判断し、知事から病院に対して退院命令が出されます。

一方で、確かに、患者本人やご家族が抱える不安や負担感は大きいものがあることは事実です。本来、退院後に向けた環境調整は病院のケースワーカーや精神保健福祉士が行います。しかし、担当する患者が多く、きめ細かい対応ができず、家族任せになり、結果として環境調整が進まないこともあります。そのような場合、弁護士に相談することは1つの方法です。弁護士は退院請求の代理人はもちろん、債務、生活保護受給、成年後見などの財産管理、社会的資源の紹介、病院との調整などの援助をすることが可能です。

誰もが健康であることと同じくらい、病気になっても安心して過ごせることはとても重要です。精神疾患があっても社会の一員としてともに生きる、生きられる、この考えを共有することが生きやすい世の中につながっていくはずです。

2017年