取扱事件

建交労デザートプロダクションズ分会事件

神戸地裁判決が請負ではなく雇用契約であることを認めて全面勝訴

弁護士 本上博丈

1.事件の概要
主に携帯ゲーム機のゲームソフトの企画、制作を行っていた有限会社デザートプロダクションズ(以下、被告という)において、主にプログラマーもしくはグラフィックデザイナーとして被告で仕事をしていた4名(原告ら)が、2011年4月5日が支払日だった報酬金が支払われなかった(その時点で、社長及び原告らの他に3名の就労者がいた)。そこで間もなく退職のうえ、4名で建交労デザートプロダクションズ分会を結成して、団体交渉要求、県労委あっせん申請を行ったが、被告は原告らとは雇用契約ではないとして(意味としては労組法上の労働者性の否定と思われる)、団体交渉を拒否し、あっせんにも応じなかった。

建交労は、被告と原告らとの労務提供契約が雇用契約であったとの理解を前提に、神戸東労基署に対しては賃金不払い事案として指導監督を、ハローワーク神戸に対しては雇用保険の遡及適用をそれぞれ求めた。前者は雇用契約か否かの判断困難として対応しなかったが、後者はそれを認め、原告らはとりあえずは雇用保険金の給付を受けられるようになった。

未払いの報酬金(もしくは賃金)については、被告の支払能力に不安があったことから、早期に判決を得ることを最優先することとし、雇用契約であることにこだわらず、雇用契約もしくは事務委託契約であったとして、組合員4名それぞれが原告となって、賃金もしくは報酬金の請求訴訟を提起した(注、事務委託契約の場合、民法上の請負ではなく準委任なので、受託事務の完成の有無ではなく、委託の趣旨に従ったその遂行をしていれば報酬金請求権が発生する)。

これに対し被告は、原告らとの契約は業務委託契約であって、委託業務の完成を報酬金支払いの条件としていた、つまり民法上の請負契約であり、原告らは受託業務の未完成もしくは不完全な履行しかしていないから、報酬金支払い義務は発生していないとして、争った。

2013年10月2日の神戸地裁判決(末永雅之裁判官)は、雇用契約であったと認めて、原告らの請求額どおりの賃金支払を命じた。

2.原告らの業務の概要
原告らの主な業務の概要は、原告Aにおいてはゲームのプログラミング作業、原告B〜Dにおいてはグラフィック作成(PC上で人や物の2D画像を描くこと)もしくはモデリング業務(PC上で人や物の3D画像を描くこと)、そして原告ら全員共通の業務として、ゲームのアイデア考案、企画資料や企画書の作成というものだった。それらを被告代表者や、プログラミング作業についてはその責任者O、グラフィック作業についてはその責任者Fのそれぞれ指揮監督を受けて、共同して業務遂行がなされていた。

ゲームのアイデア考案、企画資料や企画書の作成というのは、ゲーム制作会社に新しいゲームの企画を提案するために、各人ごとにゲームのアイデアを出してそれを簡単なメモにまとめたり、1チーム3〜4人のチーム分けをして、チームごとに提案する新しいゲームのイメージ画像付きの説明資料を作成したり、被告代表者の意見を聞いて修正したり、さらには提案の補助資料としてムービー(ゲームに登場するキャラクターでゲームのイメージを説明する短い動画)を作成したりするもので、チーム作業が大半だった。

3.被告が業務委託契約(請負契約)であると主張していた根拠事実
(1) 原告らに、給与明細ではなく、「報酬支払ご案内書」を毎月交付し、そこには支払金が「ソフトウェア開発協力業務」に対する「報酬」である旨を記載していた。
(2) 原告A〜Cとの間では「業務委託契約書」が作成されていた。
(3) 原告Dとの間では「業務委託に関する秘密保持契約書」が作成されていた。
(4) 原告らは被告において年金や健康保険の加入手続が採られていないことも承知の上で仕事を行っていた。
(5) 勤務日及び勤務時間が厳密には定められていなかった。
(6) 業務に従事する時間の長短によって月額の報酬の額が変動することもなかった。

この中では、(2)については作成当時の被告事務職員が、税務調査に対応するために税理士からの指示で作ったもので、その時に見せるだけの目的の契約書であると説明しているメールが残っていたので、問題にならない。

問題は(5)、特に勤務時間の定めがなかったことだった。神戸東労基署が雇用契約か否かの判断困難とした主な理由もこの点だったと思われる。

4.神戸地裁判決が雇用契約と判断した考え方
(1) 判断基準
次のように述べた。「一般に、ある者が他の者のために労働して報酬を得る場合に、それが雇用契約に基づくものか、業務委託契約に基づくものかについては、雇用契約が使用者の指揮命令下の労務提供と労働の対価としての賃金の支払を本質とするところからすれば、契約書における文言ではなく、その実態において、使用従属関係が認められるかによるべきであり、具体的には、1.個々の仕事の依頼に対する諾否の自由の有無、2.業務遂行上の指揮監督の有無、3.勤務場所や勤務時間等の拘束性の有無、4.代替性、5.報酬の算定・支払方法、6.機械・器具の負担や報酬の額に現れた事業者性、7.専属性等の諸事情を総合して判断するのが相当と解される。」

本判決のここでの考え方は、労働省労働基準法研究会報告である昭和60(1985)年12月19日付け「労働基準法の「労働者」の判断基準について」に則ったものであり、裁判実務上は、定着したものと言える。

(2) 具体的な判断内容
1. 原告らが被告からなされた具体的な業務の指示を拒否した事実はなく、被告ら原告らに個々の業務を依頼するに際してそれに応じるか否かを確認したような事情も認められない。また、そもそも原告らが被告から指示を受けて従事した業務内容は特定のゲームソフトの企画制作に関するものに限定されたものではなく、被告の顧客との応対や楽天ビジネスに発注された仕事の受注のための見積書や提案書の作成など特定性の乏しい広範なものであることからすれば、原告らと被告との契約において、個々の仕事の依頼について原告らに諾否の自由があったとは認めがたい。

2. 原告らは被告代表者の指示にしたがってそれぞれの業務に従事し、仕事の内容について、被告代表者あるいはプログラミングやグラフィックのリーダーであるO及びFの指示監督を受けていたもので、業務遂行上の指揮監督関係が認められる。

3. 勤務時間の明確な定めはなかったものの、午後2時から午後8時までの時間帯は業務に従事することが求められ、その時間帯に業務に従事しない場合には事前に連絡をするものとされ、タイムカードにより勤怠を把握されていたこと、被告事務所において業務に従事していたことからすれば、その勤務の実態はフレックスタイム制に類似するものであって、場所的拘束性のみならず一定の時間的拘束性も認められる。

4. 原告らが指示された業務を他の者に行わせることは認められておらず、原告らの労務提供に代替性は認められない。

5. 報酬の算定、支払方法は、従事した業務の内容にかかわらず、固定された月額報酬を一定の締め日と支払日の約定に従って支払うというもので、個々の業務ごとに報酬を決めたことはなく、原告らと被告との間で報酬の請求手続や領収手続も採られていない、及び原告らが従事する業務内容が特定性の乏しい広範なものであることに照らすと、休日、有給休暇、労働時間、賃金等その労務提供と報酬の支払いについて労働基準法その他の労働関係法規や就業規則にしたがった取扱はされておらず、また給与明細ではなく「報酬支払いご案内書」が交付されていたことを考慮してもなお、業務委託の報酬というよりは月例賃金と理解しやすいものというべきものであり、実際に被告の経理担当者もこれを給料の支払いと表現していた。

6. 原告らは被告のコンピュータやソフトウェアを使用して業務を遂行しており、報酬は月額固定で、経費負担や報酬の面で事業者性は認められない。

7. 原告らは被告での業務に従事している間、別の仕事をしていたような事情は認められず専属性が肯定できる。

8. 「業務委託契約書」は税務調査に対する対応として必要だと言われて作成したもので実態と合致していないこと、被告代表者も原告らが事務所に来ることを「出社」と表現し、被告の業績不振についての理解と協力を求め、近いうちに入社する後輩もいるであろうから、良い新人を育てましょうと呼びかけるなど原告らを被告の社員と見ているものと理解できる表現をしていた。

以上1.から8.を併せ考えれば、被告主張事実を考慮しても、原告らと被告との間には、その実態において使用従属関係が認められ、その契約関係は被告の指示に従った労務の提供とそれに対する対価の支払いであって、雇用契約と解するのが相当。

5.コメント
労務提供の対価が「給料明細書」という形ではなく「報酬支払いご案内書」というものだったことや、理由はともあれ形の上では「業務委託契約書」が作成されていたこと、そして所定労働時間の定めがなかったことなどの否定的な事実があったにもかかわらず、使用従属関係の有無をトータルに見て、雇用契約であることを認めた意義は小さくないと思う。

原告らはゲーム作りが好きな真面目な青年で、在職中は少しでも会社の役に立てるようにと一生懸命働いていた。ところが、社長は突然、原告らの生活の糧だった報酬金の支払いを一方的に停止し、その理由として、最初は「行政から支払と止められている」という訳の分からない説明を行い、後になると業務委託(請負)だったのに指示どおりの仕事を完成させていないと言い出した。仮に、主に青年労働者を対象に労働基準法などの労働者保護法に違反した働き方をさせ、使い捨てを当然視している企業をブラック企業というなら、本件被告もブラック企業の一つと言えるだろう。ブラック企業のやり方にはいろいろあるが、本件のように実態は雇用契約であるのに、形式を業務委託契約あるいは請負契約にすることによって、労使関係をないことにするのは、時間、賃金、安全衛生さらには団結権など労働者保護法規による規制の全てから免れるためであり、極めて悪質である。このような悪質な脱法を正当化するための悪知恵を税理士が付けたという事実も見過ごせない。

なお本判決は、被告会社が控訴せず確定した。

安倍政権が進める雇用制度破壊の真相

弁護士 本上博丈(2013年4月12日記)

1.安倍政権は2012年12月に発足以来、日本銀行との連携による大胆な金融政策(=投機に向かうお札の大量供給)が耳目を集めているが、アベノミクスにおける「三本の矢」の一つとされている「成長戦略」に関しては、2013年6月の取りまとめに向けて、財界言いなりのとんでもない雇用制度破壊の計画が着々と具体化されつつある。しかも、安倍ヨイショを続ける大手メディアの報道では、労働者の生活破壊を一層進めるその危険性が隠蔽され、安倍政権が進めようとする経済政策はどれもこれもがバラ色の将来につながっているかのような幻想を振りまいている。労働者の目で、真相を見抜くとどう見えるか。

2.安倍内閣は、民主党政権下で休眠していた経済財政諮問会議及び廃止されていた規制改革会議を復活させ、また新設の日本経済再生本部のもとに産業競争力会議を設置して、これら3つの機関で、雇用分野の規制改革を検討させている。それぞれにどのような役割分担があり、どのような違いがあるかは、あまりに似通っていてよく理解できない。

これまでの報道から、それぞれの会議でどのような議論がされているかをざっと拾うと次のようなものとなる。

【1】 経済財政諮問会議
「経済活性化のため、柔軟で多様な働き方を進めるための規制改革を進める(2月4日)」多くの労働者は、安定した確実な働き方を求めていると思うが。

【2】 規制改革会議
「通達や行政指導による規制を原則廃止する措置を6月までに徹底する(2月25日)」これによれば、厚生労働省関係の、使用者の労働時間管理義務を明確にした通達、36協定の特別条項の適用期間を制限させる通達、管理監督者の範囲を厳格にする通達、偽装請負や違法派遣の境界を明確にした通達など、法解釈を明確にし、労働者保護のために一定の役割を果たしてきた多くの通達が廃止されてしまうおそれがある。

「労使双方が納得する解雇規制のあり方、その具体策としての解雇の金銭解決制度の導入(2月15日)」わずかなお金で自由に解雇できる解雇自由化法案の復活。

「事務系や研究開発系等の労働者のうち、一定の者については労働時間法制の適用のあり方を見直す(2月15日)。」これも、5年くらい前に一度断念されたホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法案)の復活。

「「企画業務型裁量労働制」の対象業務・労働者を法律ではなく労使協定で決定できるようにする。(2月15日)」

「労働者派遣法の根幹である「常用代替防止」の考え方を見直す。(2月25日)」これは、派遣労働を例外ではなく、基幹的な雇用形態の一つに位置付けるとするもので、例えば原則1年の派遣可能期間を5年に延長することなどが想定されている。

【3】-1 日本経済再生本部
安倍首相は厚生労働大臣に当面の雇用制度「改革」について具体化を指示し、そこでは、(1)失業なき円滑な労働移動(雇用調整助成金を廃止して、成熟産業から成長産業への労働力移動のため民間アウトプレースメント会社(リストラ請負会社)などの費用に税金を使う)、(2)民間人材紹介サービスの最大限活用(ハローワークの持つ求人情報や助成金を民間に開放する)、(3)「多様な正社員」の確立(正社員か非正社員という二極化ではなく、職種や地域、労働時間などを限定した限定正社員の解雇ルールを作る。無限定の正社員には労働時間規制を外し残業代ゼロのホワイトカラー・エグゼンプションを導入する)(4月2日)が考えられている。

【3】-2 産業競争力会議
「雇用維持型の解雇ルールを労働移動型ルールに転換する。」「解雇自由の原則を法に明記する。」「ホワイトカラー・エグゼンプション制度(事務系や研究開発系の労働者の労働時間規制の適用除外)の新設。」「現在の裁量労働制における深夜・休日割増賃金支払義務の廃止。」「通算5年超の有期契約の無期転換規定の廃止。」「日雇い派遣禁止の廃止」「50歳代後半〜75歳を対象にした早期退職制度の創出(以上、3月15日)」
「成長分野への労働力移転など労働力の流動化促進策。」「解雇が認められる場合の合理性の法律による明確化(以上、4月6日)」

3.財界にとってだけ都合の良い、雇用制度破壊、しかも税金を使っての民間アウトプレースメント会社の活用など、企業のリストラ・コストまで国に引き受けてもらうという濡れ手に粟の話である。労働者が日々働くことで賃金を得て家族を養い文化的かつ健康に生活していくという、人間としての基本的な生活スタイルは、企業にとっては二の次らしい。

本来、労働分野は、公労使三者で構成する労働政策審議会が厚生労働省設置法第9条に基づき、厚生労働大臣等の諮問に応じて、労働政策に関する重要事項の調査審議を行うとされている。しかし、安倍政権が復活させた規制改革会議等上記3機関は、この仕組みを無視して、首相のトップダウンで思うがままの政策を実行するための目くらましの道具である。メンバーも内容も首相が決める。そのメンバーに労働側代表が指名されたことはなく、財界の代表とそれを擁護する学者に偏った構成だ。先に閣議決定した内容を各会議に確認させて法案化していくという強権的手法が用いられている。ここでの議論の異常さは、この4月1日に施行されたばかりの改正労働契約法18条(無期契約への転換)の廃止が早くも言われていること一つを見ても、明らかである。