お知らせ

過労死事件について

八木和也

今回は過労死の事件についてご報告いたします。洲本市のガソリンスタンドの店員であったNさんが月間100時間を超える残業を続けた末に、業務中に突然死をした事件です。

Nさんが亡くなった平成24年当時、Nさんは54歳で妻と子供が3人おり、一番下の子はまだ小学1年生でした。Nさんは平成10年からこのガソリンスタンドで働き始めました。働き始めた当初から労働時間は異常でした。Nさんが残した給与明細によると平成10年8月が467時間50分、9月が425時間45分、10月が409時間、11月が421時間33分、12月が421時間となっています。当時は盆と正月も含めて休みが一日もなく、一日の労働時間が14時間を超えるような労働を年365日続けていました。亡くなる直前半年間の労働時間も同じようなものでした。月間の残業時間は100時間をずっと超えていました。夜勤もあるのですが、亡くなる直前は9日間連続で夜勤でした。

Nさんの妻はNさんのことをとても真面目で一生懸命で責任感も強くていつも何かしら動いている人だったと評しています。会社はNさんの性格を把握しながらこれを利用し、際限なく働かせていたというのが実情でした。ちなみにこれだけ働いていたNさんでしたが昇給はほとんどなく、亡くなった平成24年当時でも時給712円の最低賃金のままでした。

Nさんらのご遺族は労災請求し、平成25年6月無事に労災認定されました。Nさんは死亡診断書上は突然死で原因不明とされていましたが、労働基準監督署が照会した医師が心筋梗塞による死のおそれが強いとの意見を述べ、労働基準監督署も異常な長時間労働による過労による死亡と認定しました。

会社は労災認定後も責任を認めず、このガソリンスタンドはいわゆるセルフガソリンスタンドであるから店員に特段の仕事はなく、Nさんの労働時間のほとんどは事務所でテレビをみたり、DVDをみたり、ギターをひいたり、読書をしたりする時間にあてており、死亡の原因は倉庫内のガソリンの吸引によるものであったと言い、責任を否定してきました。

そこで、4人の弁護士による弁護団を組んで会社の責任を追及する裁判を平成27年3月に洲本の裁判所へ起こしました。私たちは、Nさんの労働実態をつかむべく、Nさんが勤めていたガソリンスタンドの店を開店から閉店までビデオ撮影し、1日に車が何台来店するかを調べてみました。すると13時間の営業時間で116台もの車が入店してくることがわかりました。一番多い時間帯では1時間で16台入ってきました。しかもセリフガソリンスタンドでは、危険物取扱の資格を持つ店員が、ドライバーが正しく給油しているか(例えば車のエンジンを切っているなど)は常にチェックしなければならないことが法令上義務づけられていることがわかりました。したがって、一人店員だったNさんは勤務時間の大部分をそのチェックの仕事に費やしていたのでした。

また、死因については循環器科の医師の協力を得て、解剖時のCTからNさんは当時動脈硬化をおこしていたこと、労働時間が異常に長かったこと、したがったNさんの死因は過重労働からの虚血性心疾患である可能性が高いとの意見書をまとめました。また、ガソリンの吸引などによる死亡例は我が国ではほとんどないこと、わずかにある死亡例は密閉された船倉でタンクからガソリンが漏れて大量に吸引してしまったケースなど、きわめて稀な場合であることがわかり、ガソリン説を否定しました。

ひとつ問題は、Nさんは糖尿病に罹っており、脂質異常や高血圧などいわゆるメタボリックシンドロームに該当していた可能性があるということでした。会社は医師の意見書で、メタボリックシンドロームこそが死亡の原因であり、死亡と業務とは無関係だと指摘してきました。

これに対して、私たちはやはり医師の意見書で、糖尿病はまだり患して間がないこと(死亡直前の健康診断で初めて糖尿病が「要治療」となっていた)、メタボリックシンドロームについても検査が正確でないので診断はできないことを反論するとともに、異常な長時間労働こそが適度な運動や規則正しい食生活を困難ならしめたのであり、仮にメタボリックシンドロームであっても、それは会社の働かせ方のせいであると反論しました。

訴訟終盤の尋問でも、Nの同僚や会社代表者への反対尋問を通して、セルフガソリンスタンドの業務が実はそれほどヒマではなかったことをはっきりさせることに成功し、Nさんの妻からは会社の働かせ方についての憤りの気持ちを力づよく訴えていただきました。

結局会社は白旗をあげ、平成29年8月、会社の責任を前提とした和解により無事に解決となりました。

Nさんが亡くなってから5年もの歳月を費やしてしまいましたが、Nさんやご遺族の無念をいかばかりかは晴らすことができたものと思っております。

2017年10月